先端研の研究領域
研究事例
深層学習を用いた複数タスク同時推定による土砂移動域抽出の高精度化
2時期の衛星画像から土地被覆情報と土砂移動域情報の抽出
はじめに
わが国では、台風や梅雨前線による大雨の影響により浸水や土砂災害が多く発生するため、地球観測衛星を活用した迅速な被災状況の把握に期待が高まっています。アジア航測においても、内閣府が推進する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2 期「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」において、光学衛星を用いた深層学習による浸水域の抽出に取り組んでいます。本稿では、光学衛星を用いた災害情報の抽出の一環として、セマンティックセグメンテーションと呼ばれる深層学習技術を複数のタスクに対応させ、土地被覆情報を活用しながら土砂移動域情報を精度良く抽出する手法を開深層学習による浸水域の抽出に取り組んでいます。
本稿では、光学衛星を用いた災害情報の抽出の一環として、セマンティックセグメンテーションと呼ばれる深層学習技術を複数のタスクに対応させ、土地被覆情報を活用しながら土砂移動域情報を精度良く抽出する手法を開発しましたので紹介します。
深層学習による土砂移動域抽出と土地被覆分類
セマンティックセグメンテーションとは、画像に含まれる人や建物といったオブジェクトをピクセル単位で識別するタスクです。このタスクを活用した手法として変化抽出手法があり、一般に異なる時刻に撮影された同一領域の画像2 枚を使用して変化した領域を抽出します。この手法は、輝度値の変化を差分により抽出する従来の変化抽出手法と比較して、衛星画像の幾何補正の精度に起因する位置ずれや、建物の倒れ込みなど見かけの位置の違い、影の影響を受けにくくなりました。
本取り組みでは、災害前後2 時期に撮影された同一領域の画像を用いて、土砂移動域抽出と土地被覆分類を同時に行います(図1)。深層学習を同時に複数のタスクに対応させることにより、2 時期の画像から抽出した土地被覆の情報と土砂移動域の情報をAI モデル内で共有することができるため、土砂移動域の情報が補強され、有用な情報が欠落することを防ぐ効果が期待できます。
使用する画像は、可視・近赤外域に4 バンドの観測波長帯を持つ地上解像度50cm のPleiades 衛星画像です(表1)。学習や評価で使用するラベル画像は、データに対する正解情報であり、土砂移動域抽出と土地被覆分類それぞれで作成します。しかし、複数のタスクに対してラベル画像を作成することは、非常に多くの時間と労力がかかるため省力化が必要です。そこで、土地被覆分類のラベル画像については、画像の輝度値に基づいて似たもの同士をグループ化する、ISODATA 法を用いて作成し省力化を図ります。土砂移動域抽出のラベル画像については、正確な評価ができるよう、2 時期の衛星画像から目視判読により作成します。

撮影地域撮影日 | 撮影日(災害前) | 撮影日(災害時) |
---|---|---|
呉市 | 2017/02/16 | 2018/07/14 |
朝倉市 | 2016/03/21 | 2017/09/30 |
2017/05/29 | 2017/09/10 | |
熊本市 | 2015/12/14 | 2016/04/29 |
深層学習による土砂移動域抽出結果と土地被覆分類結果
本手法を評価するため、比較用に土砂移動域のみを推定するAI モデルを作成して、本手法による土砂移動域の抽出結果と比較しました。評価用データを用いて比較した結果、本手法の土砂移動域の再現率(判読結果全体に対する正解の割合)は約73% で、土砂移動域のみを推定するAI モデルの約64% から9 ポイント向上しました。
本手法は、土地被覆を同時に推定する効果により、土砂移動域のみを推定するAI モデルよりも高い精度で抽出できると考えられます(図2)。また、本手法は土地被覆分類も行っているため、森林クラスから裸地クラスに変化している領域を土砂移動域と判定したことが確認できます(図3)。


おわりに
セマンティックセグメンテーションと呼ばれる深層学習技術を複数のタスクに対応させ、土砂移動域抽出と土地被覆分類を同時に行う手法を開発しました。土砂移動域抽出については、土地被覆を同時に推定する効果により、土砂移動域のみを推定するAI モデルよりも高い精度で抽出できることがわかりました。また、土地被覆の変化している領域を土砂移動域として正しく抽出していることを確認しました。今後は、土砂移動域の情報がより補強されるよう、土地被覆分類の精度についても着目し、土砂移動域抽出の更なる精度向上を目指していきます。本研究は、防災科学技術研究所より衛星画像の貸与を受け実施した研究成果の一部をとりまとめたものです。