先端研の研究領域
研究事例
点群データを利用した3次元移動量算出手法の検討
複数時期のレーザ計測や三次元モデルからの移動量算出
はじめに
アジア航測では、航空レーザ計測による詳細な地形データを15年以上前から取得しています。同じ地区を2回、3回と計測する機会も増えてデータが蓄積されるようになり、複数時期の比較解析が現実的となってきました。
また近年、重複して撮影した複数の写真から3次元モデルを生成する技術(SfM/MVS、Structure from Motion / Multi-Video-Stereo、以下SfM)が着目されています。
この方法では、写真に写り込んでいる特徴点をx, y, z の座標を持った点群(ポイントクラウド)として抽出することができ、より簡便に点群データが取得可能となりました。 そこで、これらの点群データを利用して、従来のような標高差分の算出だけでなく、3次元の変位ベクトルを計算する手法について検討しました。
手法の概要
複数の点群間で位置合わせを行う一般的な手法としてICP (Iterative Closest Point)手法1) があります。これは、2つの点群間の最近傍点を対応点として求め、対応点の距離を縮小する幾何変換を推定する処理を繰り返
すことで、マーカ等がなくても自動的な位置合わせを可能とするものです。本検討では、さらに点群の構成する面と面の距離も最小化することも考慮した手法(CCICP: Classification and Combined ICP)2)を採用しました。
航空レーザ計測データを用いた移動量解析の事例
平成28年(2016年)4月16日1時25分に熊本県で発生したM7.3の地震(以下、熊本地震)では、阿蘇市から御船町にかけて地表地震断層の出現が確認されています3)。
この地震直前(4月15日)と直後(4月23日)の2時期に実施した航空レーザ計測データを用いて、CCICP手法
による解析を行いました(図1)。水平方向の移動方向と移動量をベクトルで、鉛直方向の移動量をベクトルの色(暖色系ほど移動量大)であらわしています。1㎡に約4点の点群データを用いて、断層近傍での移動方向と移動量の詳細を面的にとらえることができました。

SfMによる三次元モデルを用いた解析の事例
SfM手法により作成した三次元モデルは非常に密な特徴点の集合であり、必ずしも同一の地点が抽出されていなくても、相対的な形状として複数時期の比較が可能と考えられます。そこで、転石を試験的に移動させ、移動量の三次元的な算出が可能であるかを試行しました。
1600万画素のコンパクトデジタルカメラを用いて、転石の周囲を多方向から15枚程度撮影し、SfMソフトウェアを用いて三次元モデルを作成しました。SfMにより抽出された移動前後の色付き点群を図2に示します。
移動量算出は、まず、移動後の画像から得られた特徴点のうち不動と考えられる点群を、移動前の点群に最も適合する位置へ移動させるための座標変換行列を求めました。その上で、求めた変換行列を移動部(転石)に適用し、移動ベクトルを算出しました。移動方向に直交の点群断面を作成し、その点における三次元移動ベクトルを表示したものを図3に示します。前方に回転しながら移動していることがわかります。
この手法では、初回計測時に座標またはスケールの情報があれば、2時期目以降は位置情報が不要という利点があります。


おわりに
今回、レーザ測量および写真測量の手法を用い、有人航空機と手持ちカメラを利用して、三次元移動量を算出した事例を紹介しました。
検討した手法は、複数時期の点群データがあれば、センサやプラットフォームを問わず適用できます。例えば無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle, UAV)による写真撮影あるいはレーザ測量なども利用すれば、広域から局
所的な調査まで、様々なスケールで活用可能です。また位置情報の付与は初回のみで、二回目以降は相対的なデータでよいため、簡便に取得可能です。
今後三次元データの取得機会、活用可能性はますます増大するものと期待されます。その一助となるよう今後も検討を進めていく所存です。
- S.Takai, H.Date, S.Kanai, Y.Niina, K.Oda, and T. Ikeda:Accurate registration of MMS point clouds of urban areas using trajectory, ISPRS Ann. Photogramm. Remote Sens. Spatial Inf. Sci., II-5/W2, pp.277-282, 2013.
- K.Oda, S.Hattori, T.Takayama:Detection of Slope Movement by Comparing Point Clouds Created by SFM Software, The International Archives of the Photogrammetry, Remote Sensing and Spatial Information Sciences, XLI-B5, pp.553-556, 2016
- 高山 陶子,織田 和夫,千葉 達朗,藤田 浩司,船越 和也:2時期の航空レーザ計測による熊本地震の定量的な変状把握,第55回日本地すべり学会研究発表会講演集,pp.282,2016