アジア航測株式会社 先端技術研究所 アジア航測株式会社 先端技術研究所

先端研の研究領域

研究事例

干渉SAR時系列解析による 地盤沈下のモニタリング

衛星リモートセンシングで地盤の変動を捉える技術

はじめに

SAR は 合 成 開 口 レ ー ダ ー(Synthetic Aperture Radar)の略称で、マイクロ波と呼ばれる電磁波を用い たリモートセンシング技術です。SAR は人工衛星や航空 機に搭載することで、昼夜・天候状況を問わない観測能 力や、位相情報を用いて対象物の変動を調べる干渉解析 といった特長を持っています。「合成」という言葉は、移 動しながら観測したデータを合成することで、実際のア ンテナよりも大きくて、より性能の高い仮想的なアンテ ナを作り出し、得られるデータの解像度を高める手法で あることを意味しています。

本稿では干渉解析の一種である、干渉 SAR 時系列解析 を紹介します。図 1 は干渉 SAR 時系列解析で用いられる主要な人工衛星である ALOS-2(宇宙航空研究開発機構)、 Sentinel-1(欧州宇宙機関)の概要です。

今回の事例ではデータが無償公開されている Sentinel-1 を使っています。

図1 干渉解析で用いる主要なSAR衛星
図1 干渉解析で用いる主要なSAR衛星

干渉SAR時系列解析

SAR のデータは、画素ごとに振幅と位相の二種類の情 報を持っています。干渉 SAR 解析は二時期に観測された SAR 画像の位相の変化を調べることで、対象物のわずか な形状変化を捉える技術です。地震前後の SAR データを 使って、震央を中心とした地盤変動分布を調べることが できます(図 2 左)。ただし、ワンペアだけのデータでは 大気状況による影響による誤差と地盤変動の判別ができ ない場合がありました。

干渉 SAR 時系列解析は、一定期間の間に連続して観測 した数十枚の SAR データ(通常は一年以上)を統計的に 処理することで干渉解析に含まれる誤差を軽減させ、時系列の変動量や、期間中の変動速度(単位は通常 cm/ 年 もしくは mm/ 年)を求める手法です。

時系列での変動量は期間中に発生した陥没等の突発的 な事象、変動速度は期間中を通じた地盤沈下等の調査に 適しています。このため、地盤沈下や盛土切土、各種構 造物の変動モニタリングへの活用が期待されています。

2022 年度以降の打ち上げが予定されている ALOS-4 では、日本国内を中心として干渉性の高い L バンド SAR のデータが現在の 5 倍、年間 20 シーン程度観測される 計画です。

また国土地理院では、令和 4 年 4 月に「衛星合成開口 レーダー地盤変動測量 作業規程」を公開し、L バンドSAR(ALOS-2、ALOS-4)による基本測量作業方法及び、 精度管理の基準を定めています。

図2 干渉SAR解析(左)、干渉SAR時系列解析(右)
図2 干渉SAR解析(左)、干渉SAR時系列解析(右)

2.5次元解析

SAR 衛星は一般的に南極と北極を結ぶ軸に対してわず かに傾いた軸(軌道傾斜角と呼ばれ ALOS-2 で 7.9 度) に沿って地球を周回し、通常は進行方向に対して右側を 観測します。北行軌道は西から東側を観測、南行軌道は 東側から西側を観測するので、干渉 SAR の解析では東西 二方向からもとめた変動量(衛星・対象地域間の斜線方向) を求めることができます。

2.5 次元解析では東西二方向の変動量を、垂直方向と 東西方向に分離する手法です。これにより地盤や構造物 といった対象の変動をより具体的に捉え、水準測量等の 既往情報と比較も可能になります。

図3 2.5次元解析の概要
図3 2.5次元解析の概要


解析事例

図 4 は、京王線つつじヶ丘駅(東京都調布市)周辺を 対象とした干渉 SAR 時系列解析の事例です。

この地区では 2020 年から東京外かく環状道路のトン ネル掘削工事が行われており、同年 10 月 18 日に住宅街 の一部で陥没事故が発生しています。

こ の 解 析 で は Sentinel-1 の Interferometric Wide Swath モード(観測幅 250km、30m/ 画素)の観測デー タ、期間は 2019 年 1 月から 2021 年 8 月末まで、北行 軌道と南行軌道合わせて 159 枚分のデータを使っていま す。

図 4 は、同地区での東西方向の変動の積算値を示して います。図中の赤点が東側方向の水平移動、青点が西側 方向の水平方向です。図中の南東から北西方向に走る赤 線がトンネルの路線を中心として、西側では東向きの変 動(赤色点)、東側では西向きの変動(青色点)が分布し ています。図 5 が東西方向の変動量積算値の時系列推移 です。赤線がトンネル西側、青線がトンネル東側の変動で、 陥没事故前の 9 月頃から、15mm 程度の明確な変動傾向 の違いが表れていることがわかります。

図4 東西方向の変動量積算値
図4 東西方向の変動量積算値
図5 東西方向の変動量積算値
図5 東西方向の変動量積算値

おわりに

本稿では、衛星 SAR や干渉 SAR 時系列解析の概要と、 解析事例を紹介しました。本技術は新規衛星の開発・打 上等の動向を受けて今後大きく進展が見込まれると予想されます。今後は大規模盛土・道路等の構造物・斜面な どのモニタリングといった様々な社会問題の解決に貢献 研究開発を進めていく予定です。