アジア航測株式会社 先端技術研究所 アジア航測株式会社 先端技術研究所

先端研の研究領域

研究事例

車載型レーザ計測システム取得点群からの道路面損傷ベクトルデータ抽出

道路舗装面維持管理の高度化に向けて

はじめに

テキスト ボックス道路舗装面の損傷は、道路を走行する車両の安全性や快適性に大きく影響するため、定期的に点検して損傷を特定するとともに、その状態を評価する必要があります。現状では、路面性状測定車と呼ばれる専用車両や車載型レーザ計測システムなどにより、わだち掘れやひび割れの損傷程度などを把握しています。しかし、わだち掘れの点検は、地点ごとの道路横断面におけるわだち掘れの深さの調査であり、点検結果は面的な情報とはなっていません。また、ひび割れについても、グリッドごとに損傷程度を記述するだけで、ひび割れが道路上をどのように分布しているのかについての情報を有していません。アジア航測では、損傷の分布を把握するために、車載型レーザ計測システムによって取得した点群からわだち掘れやポットホールなどの領域型損傷と、ひび割れなどの線状型損傷をベクトルデータとして抽出する手法を開発しました。この手法では、損傷のない舗装面である正常舗装面を推定し、正常舗装面と各点の高さの差である変状変位量から領域型と線状型損傷を抽出します。本稿では、車載型レーザ計測システムによって取得した点群から領域型損傷をポリゴンとして、線状型損傷をポリラインとして抽出する手法を開発し、抽出性能を評価した結果を紹介します。

正常舗装面の推定と変状変位量の算出

開発した手法では、正常舗装面は滑らかな曲面で表現できると仮定し、3 次曲線を用いて道路の横断方向の正常舗装面を表すこととします。広範囲に変状が存在する領域型損傷と局所に変状が存在する線状型損傷に対して変状変位量を抽出するために、3 次曲線フィッティングを行う際のパラメータを変更することにより、図 1(1)に示すように、領域型損傷抽出用と線状型損傷抽出用の正常舗装面をそれぞれ推定します。次に、領域型および線状型損傷の正常舗装面の高さと、道路面の各点の高さの差分を、領域型および線状型損傷の変状変位量として算出します(図 1(2))。

図1 正常舗装面の推定と変状変位量の算出
図1 正常舗装面の推定と変状変位量の算出

領域型損傷および線状型損傷の抽出

領域型損傷は、損傷種別と損傷の程度を表す指標を属性として持つポリゴンとして出力します。領域型損傷には、変状変位量が負の値となるわだち掘れやポットホール等の凹形状の損傷と、変状変位量が正の値となる凸形状の損傷が存在します。凹形状および凸形状の損傷のエリアを特定するために、変状変位量の絶対値の大きい点を抽出し、近傍点をクラスタリングすることで点集合を作成します。さらに、点集合から領域型損傷のポリゴンを作成し、ポリゴン構成点の最大変状変位量やポリゴン面積などの指標を使用して、ポリゴンごとに損傷種別を判定します。

線状型損傷は、損傷の深さ情報を持ち、分岐を持つポリラインとして出力します。変状変位量に基づいて損傷点を抽出し、損傷点の代表点を接続することにより、線状型損傷のポリラインを作成します。

実証実験による抽出性能の評価

開発した手法の抽出性能を評価するために、川崎市麻生区内の一般道路を車載型レーザ計測システムによって取得した点群を使用して、実証実験を行いました。図 2 に示す点群に対して領域型損傷の変状変位量を抽出した結果を図 3 に示します。領域型損傷の変状変位量からは、反射強度により色付けした点群からでは確認することのできないわだち掘れや凸部を確認できました。図 3 の変状変位量から領域型損傷ポリゴンを抽出した結果を図 4 に示します。図中の色は損傷種別判定結果を示しています。図 4 からは変状変位量の大きい領域が抽出されていることが確認でき、目視判読によって作成したポリゴンと比較した結果から形状の抽出性能が良好であることを確認しました。損傷種別の認識についても概ね正しく判別できていました。

道路•鉄道図5 に示す点群に対して抽出した線状型損傷の変状変位量の分布図(図 6)からは、ひび割れや舗装面の継ぎ目を確認できました。図 6 の変状変位量から線状型損傷ポリラインを抽出した結果を図 7 に示します。損傷の深い箇所を線分化できており、アスファルト面と側溝の継ぎ目も抽出されていました。

図2 車道部点群の反射強度(1)
図2 車道部点群の反射強度(1)
図3 領域型損傷の変状変位量
図3 領域型損傷の変状変位量
図4 領域型損傷ポリゴンの抽出結果
図4 領域型損傷ポリゴンの抽出結果
図5 車道部点群の反射強度(2)
図5 車道部点群の反射強度(2)
図6 線状型損傷の変状変位量
図6 線状型損傷の変状変位量
図7  線状型損傷ポリラインの抽出結果
図7 線状型損傷ポリラインの抽出結果

おわりに

開発した手法で得られる損傷のベクトルデータは、損傷情報の詳細な管理や可視化、既存の損傷記録データへの変換が可能です。今後は、予防保全型の道路維持管理を実現するために、多時期の損傷状態から損傷程度の将来予測を行うことを検討していきます。アジア航測は、車載型レーザ計測システムによる高密度点群の取得と活用手法の検討により、道路維持管理の高度化を推進していきます。