アジア航測株式会社 先端技術研究所 アジア航測株式会社 先端技術研究所

先端研の研究領域

研究事例

赤色立体模型を用いたプロジェクション マッピング

はじめに

アジア航測の新百合の社屋の入り口に、伊豆大島の赤色立体模型が展示されています。2007 年に作成したもので、立体感のある美しい模型です。火山噴火によって作り出された大地形も微地形も手に取るようにわかるので、すぐに評判になりました。このような大型模型は、これまでに、有珠山、岩手山、安達太良山、吾妻山、磐梯山、富士山、三宅島、御嶽山、桜島などで作成してきました。

模型上でシャンプーを流す“アナログモデル実験”も好評で、溶岩流や土石流の防災学習に役立てられています。そのなかで、模型上にさらにほかの情報、地質図やハザードマップ、水系図などを投影できないかと相談を受けることがたびたびありました。しかし、凹凸がある模型上への精密位置合わせは困難で、模型が赤色のため色が濁るという問題もあり、断念せざるを得ませんでした。ここで紹介する新技術は、高輝度プロジェクターと精密位置合わせ技術でその問題を解決したものです。

模型を使った地形表現の方法

従来の模型を使った地形表現では、地形模型の表面に主題図を印刷する方法が多く行われてきました。しかし、この方法では一度模型を作成すると情報の更新ができないため、表示内容を変えたくなったときにはまた新しい模型を作らなければいけません。

そこで、最近取り入れられているのがプロジェクションマッピング技術を活用して地形模型に投影を行う手法です。投影画像がデジタルデータのためカスタマイズ性が高く、コンテンツの追加や更新が可能なため長く継続して使うことができます。しかし、技術的な壁として、①プロジェクターの光量が足りないため映像が粗く、明るい場所には設置できない、②投影対象が凹凸のある模型のため、位置やピントを合わせることが困難といった課題がありました。また、模型が白色のため、画像投影していない状態では細かい尾根や谷といった小規模な地形の凹凸イメージが得にくいという問題点もありました。

今回使用したP + MM(プロジェクタ+マッピング模 型、㈱ウェザーコック製)は、近年普及が進んでいる高輝度のプロジェクターを使用した投影装置です。投影画像を地形の凹凸に合わせて変形させることで、山頂でも山麓でもずれのない投影を実現しています。

このように、最新のデジタル投影技術と、高解像度数値地形データを用いた精度の高い地形表現を強みとする赤色立体模型のコラボレーションによって、美しくてわかりやすい、高精細なプロジェクションマッピング模型の作成が可能になりました。

図1 富士山赤色立体模型
図1 富士山赤色立体模型

富士山赤色立体模型とプロジェクションマッピングの特長

富士山赤色立体模型は硬質ウレタンを切削成形し、表面に赤色立体地図のシートを貼付して作成しました。模型の作成には航空レーザ測量データのほかに、湖沼部には国土地理院の 1 万分の 1 湖沼図を、海域部には日本水路協会の海底地形デジタルデータ(M7001 関東南部)を使用し、海抜 0m 以下の地形についても表現しました。これにより、地形を陸上から海底・湖底まで一連のものとして実感することができます。

投影画像は、①富士山火山地質図、②河川・湧水分布図および③火山地質図+河川・湧水分布図(①と②の合成)の 3 種類を作成しました。今回の投影コンテンツは静止画のみですが、動画を投影することも可能なため、溶岩流や土石流の流れをわかりやすく表現するのにも有効です。

プロジェクションマッピングによる投影状況を図 2 に示します。投影画像は模型上に鮮明で歪みなく投影され、まるで液晶ディスプレイのような感覚で画像を見ることができます。投影の位置合わせも精密で、投影画像の川筋と赤色立体模型の谷地形がずれなく重なっている様子が分かります。

赤色立体模型に地質図などの色のついた画像を投影すると、鮮明に認識できなくなることが懸念されていましたが、高輝度プロジェクターを用いたことに加え、模型に貼付する赤色立体地図の色調をやや暗くすることで十分な視認性が確保できました。これにより、投影画像を見ながら背景となる地形を読み取ることが可能になりました。

機器の設置、組み立ても容易です。今回作成した模型は常設展示での使用を目的として 100cm × 75cm、高さ強調 1.5 倍で作成しましたが、一回り小さい A2 判のポータブルサイズの模型であればキャリーケースで簡単に持ち運ぶことができます。イベント会場や出前授業での活用方法も考えられます。

図2  富士山赤色立体模型へのプロジェクションマッピングの例
図2 富士山赤色立体模型へのプロジェクションマッピングの例

おわりに

今回作成した赤色立体模型は、静岡県富士山世界遺産センター企画展「富士山の湧水―その道のりと歴史―」(2020 年 8 月 8 日~ 10 月 4 日開催)で展示されました。赤色立体模型と最新のプロジェクションマッピング技術の組み合わせによって、富士山の地形地質と湧水の統合的な理解を促す展示は大変好評となりました。同センターでは今後、火山防災、文化・歴史等のコンテンツを追加していく予定です。

このように、ニーズに合わせて投影内容をカスタマイズできるプロジェクションマッピング模型は、防災教育のみでなく、地理・環境・文化・歴史など様々な分野で力を発揮します。今後、赤色立体模型の活用の幅がさらに広がることが期待できます。