先端研の研究領域
研究事例
赤色立体地図の歴史
2002年の発明までの試行錯誤とその後の改良
はじめに
赤色立体地図は、航空レーザ計測による成果を画像1枚で見やすく表現する地形表現法です※1。樹木除去や地形判読・現地調査等に最適で、最近では、AIによる学習や遺跡調査にも利用されています。私はこの手法を2002年に発明しましたが、その後も改良を加えてきました。特許公開から20年の節目にあたり、本稿であらためて赤色立体地図完成前の試行錯誤の過程をなぞり、その後の改良を経て現在のかたちに至るまでを紹介することにしました(図1)。

赤色立体地図以前のはなし
1990年代、DEMデータは有料であり、2万5千分の1図郭ごとに1万円で販売されていました。岩手大学工学部の横山先生は、全国分を買いそろえ、地形の可視化研究を進めていました。先生からは、「斜度図はできたけど、尾根谷の表現は難しいね。」と聞いていました。
そのような中、1997年の秋、研究室を訪問する機会がありました。新パラメータの「天空開放度」(のちの地上開度)の印刷図を見学するためです。そして、計算法を説明してくれた院生に対し、「地形を裏返して計算すればもう一つのパラメータになるよね。」とアドバイスしました。これがのちの地下開度となりました※2。
三宅島2000年噴火直後、横山研究室のwebぺージに、地上開度、地下開度、斜度の3枚のモノクロ画像が公開されました。そこで私は、3枚の画像から、フルカラーの「地形表現画像」を試作してみたところ、カルデラ地形が見事に可視化できました(図2)。その年の冬、都内の学会で横山先生にお会いした際に、全国の3枚の画像をカラー合成して1枚にしませんかと、提案しました。先生の返事は、「千葉さんに任せるから、自由にやってみてください。特許が取れるかもしれないじゃないですか。」ということでした。その言葉に背中を押され、取り組んでは見たものの、RGBにパラメータを割り当てただけでは、地形分類図はできても、判読や野外調査に適した画像はできませんでした。
最初のブレイクスルーは、2001年の尾根谷度の発見です。三宅島噴火後の調査のために、神津島まで来たものの、海が荒れて、旅館に缶詰になっていたときでした。時間を持て余したなかでの試行錯誤の末に、地上開度と地下開度から尾根谷度を作成することに成功したのです。
残る課題は、もう1枚の斜度図との合成だけでした。それが完成したのは、2002年の夏で、きっかけは富士山の青木ヶ原樹海の現地調査前の遭難対策時、見やすい図面を様々に検討したときでした※3。

赤色立体地図とその課題
図2の「地形表現画像」は、RGBチャンネル合成で、赤チャンネルに地上開度(尾根ほど赤)、緑チャンネルに地下開度(谷ほどが緑)、青チャンネルに斜度画像(急斜面ほど青)を割り当てたものでした。
一方、できたばかりの「赤色立体地図」は、3枚のレイヤーの合成で、グレースケールの地上開度(尾根ほど明るい)、グレースケールの地下開度(谷ほど暗い)、赤色の斜度(急斜面ほど彩度が高い)の乗算合成です。開度の効果で、微地形と大地形が同時に把握できることと、立体感があることが特徴でした。ちょうど、会社が厚木から新百合ヶ丘に移転した時期とも重なり、コンサルの新技術を計測に生かそうという動きもあって、プログラム開発と並行して特許出願を急ぎ、2003年の11月5日に出願し、2005年に公開となりました※4。

Lab カラーの適用
特許出願後、様々なリソースで展開を始めましたが、課題もありました。2006年の中越地震で山古志村のレーザ計測を行い、赤色立体地図を作成したところ、深い谷が黒い筋となり、暗い図となってしまったのです。そこで、作成法に改良を加えました。まず、Labカラー空間で、aチャンネルに地上開度(尾根ほど明るい)、bチャンネルに地下開度(谷ほど暗い)、Lチャンネルに斜度(急斜面ほど暗い)を割り当て、調整画像を作成します。この画像を、暗い赤色立体地図に20%程度の濃度で重ねることで、谷が緑青色に染まった、改良版の赤色立体地図になります(図4)。この手法が、現在の主流です。この改良版赤色立体地図も、特許を取得しています。最初の特許のように、学術研究者向けの無償実施許諾の対象とはしていません。本特許は、2029年まで有効です※5。

おわりに
赤色立体地図の最初の特許は、2023年11月5日に期限を迎えました。当初、1枚の画像作成に複数のソフトを使用し、数時間を要しましたが、本項の図面は各1分以内で作成できました。最近では、赤色立体地図を放送局に提供し、三次元CG動画作成に利用されることも増えました。1枚の二次元画像なのに、立体的に感じられる赤色立体地図が、重宝されているのです。
様々な試行錯誤こそが、新しいものを生み出したことを忘れずに、これからも改良を続けていきたいです。
[注釈]
※1 千葉達朗・鈴木雄介(2004)赤色立体地図-新しい地形表現手法-,応用測量論文集,15,81-89.
※2 横山隆三・白沢道生・菊池祐(1999)開度による地形特徴の表示.写真測量とリモートセンシング 38,4,26-34. ※3 千葉達朗・鈴木雄介・平松孝晋(2007)地形表現手法の諸問題と赤色立体地図,地図,45,27-36.
※4 視覚化処理システム、視覚化処理方法、及び視覚化処理プログラム.特許第3670274号
※5 立体画像生成装置.特許第5281518号