先端研の研究領域
研究事例
山城用赤色立体地図
地形判読から遺構判読への発展
はじめに
近年、赤色立体地図の考古学分野、特に山城での利活用が進んでいます。
毎年開催される山城サミットやお城EXPOでは、多数のブースで赤色立体地図の展示や関連グッズ販売が行われています。赤色立体地図による山城表現を扱ったNHKの関ケ原関連番組は好評で、繰り返し再放送されています。飛騨市は、赤色立体地図を利用した城館研究の論文も公開しています※1。
これらの赤色立体地図は、アジア航測が受注あるいは広報用に制作しましたが、一般的な斜面判読用のパラメータで作成しており、特段の調整を行っていませんでした。山城は、主に戦国時代に地形を改変したもので、独特の微地形が特徴的です。それを際立たせるような可視化ができれば、さらなる現地調査や研究の進展に寄与できると考え、新たに検討を行いました。なお、利用した地形データは、東京都のデジタルツインの公開データである多摩地区のレーザ計測(25cmメッシュ)の成果です。
赤色立体地図のパラメータ
赤色立体地図は、2002年に富士山の青木ヶ原樹海の現地調査の際に、航空レーザ計測の成果を可視化するために開発されました。斜度に彩度を比例させ、尾根谷度に明度を比例させた画像です。尾根谷度は地上開度から地下開度を減じてそれを2で割って求めます。メッシュサイズや高さ強調、開度考慮距離を変更することで、目的に応じて立体感を調整できます(図1)。通常は様々な地域の地形判読を安定的に行うために統一されたパラメータを使用しています。例えば斜面判読でよく利用されるのは、メッシュサイズ1m、高さ強調1倍、開度考慮距離50mです。今回は山城用の特別なチューニングを試みました。高解像度のDEM(25cmメッシュ)の使用を前提として、地形の大きさ、傾斜や起伏の大きさ、ノイズの状況に合わせて、開度考慮距離と高さ強調度を変更し、山城用赤色立体地図を作成しました。

山城の地形的特徴
山城は自然の地形を最大限に利用し、防御を強化するために地形改変を行っていました。各地の中世の城郭を特徴づける代表的なものを列挙します。
(1)主郭(しゅかく):城の中心部で、通常は山頂や最も高い地点に設置されます。居住や防御の拠点となります。(2)平場(ひらば):山の斜面や尾根に造成した平坦な部分です。(3)堀切(ほりきり):尾根を横断する方向に掘削し、尾根伝いの進入路を遮断します。(4)竪堀(たてぼり):斜面の縦方向に溝を掘削し、斜面上の横移動を防ぎます。(5)曲輪(くるわ):区画化された平場で、まわりが急斜面となります。(6)虎口(こぐち):城への出入口部分で、複雑な動線により敵の侵入を阻害するものです。(7)土塁(どるい):尾根沿いや尾根横断方向の盛り土です。(8)空堀(からぼり):敵の侵入を防ぐため、山腹に沿って掘った人工の溝で、水がないもの。静岡県の山中城の空堀は、底が障子状になっています(図2)。

八王子滝山城跡の事例
八王子市の滝山城跡は、加住丘陵に位置する山城で、1560年代に北条氏により築城されました。公園としてよく管理され、中世の城の構造を観察することができます。現地写真を図3に、赤色立体地図を図4に示します。


東京都の多摩地区25cm赤色立体地図公開画像より※3
「撮影地点」の矢印は、図3の撮影方向を示します。
地形反転赤色立体地図と開度比地形分類
赤色立体地図は、谷部にある空堀などは暗く表現されるため、城郭の構造を理解しにくいことがあります。このような場合、地形反転赤色立体地図を作成すると、空堀が膨らんでいるように表現でき(図5)、空堀で防御を固めた、中世の城郭の構造を可視化することができます。
図6は地上開度と地下開度の平均値の大小の比較傾向(開度比)により地形を4分類したもの(開度比地形分類)で、防御のための工夫を明確にすることができます。おおむね、平場は赤から緑、曲輪と土塁は緑、空堀と谷は青、その他斜面は黄色に着色されます。

高さ強調-1倍、開度考慮距離50m

(地上開度と地下開度の比較で着色)赤:高い-高い、
緑:高い-低い、青:低い-高い、黄:低い-低い
おわりに
山城における地形改変は、多くの切土と盛り土を伴っています。構築から数百年が経過したにもかかわらず、原形を保っているものが多く、地形可視化によってさらに理解が進むように、研究を続けていきたいです。
[参照]
※1 大下永(2021)城館調査における赤色立体地図の活用について~飛騨市の調査事例から~、飛騨市歴史文化調査室報、3、129-175.
※2 静岡県(2022)富士山南東部・伊豆東部点群データ
※3 東京都(2023)多摩地域3次元点群データ