先端研の研究領域
研究事例
深層学習を用いた固定カメラ画像からの流水検出の試み
土砂移動検知の効率化を目指して
はじめに
国土交通省や都道府県では、土砂災害の発生をいち早く覚知するため、山間地域の河川・渓流にCCTVカメラなどの固定カメラを多数設置しています。
これまで画像解析による土砂移動現象の自動検出手法は多数提案されていますが、検出結果は照明変化の影響を受けやすく、またカメラや設置条件が変わる度に解析時の閾値などを再検討する必要があり活用は限定的です。このため現状では画像からの土石流や出水などの検知は、主に目視によって行われています。
一方、近年は深層学習による物体検出の精度や処理速度が実用水準に達しつつあります。河道に設置された固定カメラ画像の学習データセットは十分な整備が進んでいないなどの課題はありますが、様々な撮影条件の画像を準備し学習することで、照明変化や気象変化が大きい画像でも適切に検出することが期待できます。本稿では、出水時に生じる流水を検出対象とし、深層学習による固定カメラ画像からの自動検出を試行しましたので紹介します。
深層学習による流水の自動検出手法
物体検出とは、画像の中から物体の位置と定められた種類(クラス)を判定することです。物体が写った画像と、物体の位置を示す矩形領域およびクラス情報をペアとしたデータ(アノテーションデータ)を多数準備し、学習を行います。得られた学習済みモデルを用いて、未知の画像上の位置・クラスを推定します(図1)
本取り組みで使用した画像は、富士山大沢川に設置された固定カメラ画像です。大沢川は、平常時は水無川で降雨時に流水が生じる渓流で、土砂移動状況を把握するために複数の固定カメラによりインターバル撮影を行っています。学習データは、手作業により物体の位置・クラスを記録し構築しました。クラス区分は「清水」、「濁水」の2種類です。清水は白色の流水とし、滝形状(図3a)や斜面を流れる形状(図3e)としました。また流量が非常に少ない、濡れの状態(図3f)を含むものとしました。濁水は土砂混じりの茶色に呈した形状(図3b, d)のものとしました。今回は、約17万枚の画像のうち流水が写り込んでいる674枚についてアノテーション作業を行い(表1)、このうち8割を学習に、2割を検証に使用しました。また矩形領域が極端に小さいと検出困難なことから、遠方カメラ画像については関心領域で切り取る工夫をしました(図2)。



深層学習による流水の自動検出結果
学習データセットの一部を使いモデルを構築し、学習に使用していない残りの画像で検証を行った結果、再現率は清水が約6割、濁水が約8割という結果が得られました。主要な澪筋は適切に予測されており、出水が起こっているか否かの判定は可能であることを確認しました(図3a~f)。また霧がかった気象条件(図3c, d)や降雪時(図3e)であっても流水を検出することができました。流量が非常に小さい濡れの状態も検出可能ですが(図3f)、地形などの影と似たテクスチャのものは検出漏れとなるケースもみられました。

おわりに
深層学習による固定カメラ画像からの流水の自動検出を試行し、清水および濁水の検出について定性的には良好な結果が得られることが分かりました。今後はさらに学習データを蓄積し、検出精度の向上を図ります。
今回の検出対象は流水でしたが、同様の手法を利用し、河道内に出現する現象(土石流、雪崩など)や物体(礫、流木など)の検出を行うことも可能です。将来的には、このようなAI解析に加えIoT技術と組み合わせたリアルタイム土砂移動検知システムの構築を目指し、インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進していきます。
本稿では、国土交通省中部地方整備局富士砂防事務所発注の業務で取得したデータを使用しました。データをご提供頂いた関係者の皆様に御礼を申し上げます。