アジア航測株式会社 先端技術研究所 アジア航測株式会社 先端技術研究所

先端研の研究領域

研究事例

XR技術を用いた三次元空間情報の可視化によるDXの推進

社会基盤の維持管理におけるARとMR技術の活用に向けて

はじめに

XRは、現実世界と仮想世界を融合することで、現実にはないものを見たり触れたりできる疑似体験技術の総称です。近年、XRに含まれるAR(Augmented Reality:拡張現実)技術やMR(Mixed Reality:複合現実)技術が注目を集めています。ARは、現実空間上にデジタルデータを重ね合わせて表示する技術であり、家具の三次元データを実際の部屋の中に重ねて表示するなどの用途で利用されています。MRは、現実世界の中にホログラムなどで仮想世界を融合させる技術であり、仮想世界のデータに直接触れて操作することができるという特徴があります。

アジア航測では、インフラ分野などで現場作業を効率化し、コミュニケーションを円滑化する目的で、AR/MR技術によって三次元空間情報を活用するシステムを開発しています。本稿では、開発中のAR及びMRシステムの概要と活用事例について紹介します。

ARシステムの開発

アジア航測では、カメラ、ジャイロ(姿勢センサ)などのセンサを有するタブレット端末やスマートフォンによって動作するARシステムを開発しています。三次元データをAR表示するためには、リアルタイムに端末のカメラの現在位置と傾きを取得する必要があります。ARシステムでは、端末に搭載されているGNSSやジャイロなどのセンサによって位置と傾きを取得し、それらの情報に基づいて三次元データをカメラ画像に重ね合わせて表示します。しかし、取得した位置や傾きには誤差が含まれているため、ほとんどの場合においてカメラ画像と三次元データは正確に重なりません。開発中のARシステムでは、この課題を解決するために簡易に位置と傾きを補正する仕組みを実現しています。1つ目の補正方法では、QRコードを利用します。事前に現地の特徴的な2地点の座標値を記録したQRコードを作成しておきます。

図1 GISデータによる位置補正のイメージ

AR技術の活用事例

AR技術を水道施設の管理に活用した事例を紹介します。道路の掘削工事では、地中に埋まっている水道管を傷つけるリスクがあるため、水道施設の管理者は工事作業者に水道管の位置や深さを適切に伝える必要があります。ARによって管路を表示し、その深さや管径といった情報も表示することで、直感的な情報共有が可能です。また、豪雪地帯においては、積雪時に埋没した水道施設を点検する作業は困難を極めます。このような場合において、マンホールやバルブなどの位置をAR表示することで、点検対象の施設を見つける作業が容易になります。

図2は水道管やマンホール、バルブのGISデータをARにより表示した事例となります。これらのデータが正確にカメラ画像と重なっていることを確認するために、道路や建物のGISデータも同時に表示しています。

この事例のようにAR技術は現実空間では見ることのできないデータを可視化する場合に威力を発揮します。

図2 水道施設GISデータのAR表示

MRシステムの開発

アジア航測では、Microsoft社製のHololens2(図3左)を使用して、地形データやBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling)データなどのモデルデータ等をMR表示するシステムを開発しています。

手や指を動かすことで、図3の右に示すようなメニューを操作する仕組みとなっており、三次元データの表示機能以外にも、表示縮尺の変更、データの移動、回転、注記入力機能等を搭載しています。

図3 MRによるモデル表示の仕組み(左)と機能例(右)

MR技術の活用事例

MRは没入感のある三次元データの表示が可能であり、地形データの詳細確認などにも活用できます。図4は航空レーザ測量成果による三次元地形モデルと試作した建物モデルをMRにより可視化した事例です。モニタでの表示とは異なり、直感的にさまざまな位置や角度、縮尺で三次元地形と都市空間を確認できるほか、都市山麓の災害地形や対策施設の整備状況を複数人で同時に閲覧するなど、三次元データを介したコミュニケーション(バーチャル点検・教育など)への活用が期待できます。

図4 三次元地形モデルと建物モデルのMR表示
(三次元地形モデルは国土交通省六甲砂防事務所提供の航空レーザ測量成果を利用)

おわりに

従来、現場調査においては紙の図面や二次元のデジタル地図を使用して現地調査をしてきました。また、三次元データの閲覧はモニタに表示することが一般的でした。近年普及の進むXR技術を利用することで空間情報をより有効に活用できると考えられます。空間情報によるインフラ維持管理の高度化や非接触・リモート型の働き方が進展し、その結果としてインフラ分野をはじめとするさまざまな分野においてDXが推進すると考えられます。アジア航測では、今後もXR技術の開発と活用に取り組んでいきます。