アジア航測株式会社 先端技術研究所 アジア航測株式会社 先端技術研究所

先端研の研究領域

研究事例

機械学習を援用した航空レーザのノイズ除去

赤色立体地図で表現されたノイズの自動検出と除去手法の開発

はじめに

航空レーザ計測によって得られる地形情報(標高データ)は、河川・砂防の調査・計画や火山防災分野を始め、道路・鉄道の設計・管理、都市計画、森林調査などさまざまな分野で利用されています。アジア航測では、こうした分野のニーズに応え、高品質な地盤標高データを提供するため、独自の地形表現手法である赤色立体地図(特許第4272146号)を用いて、計測データに含まれる樹木や建物などの地物を発見しやすくした上で、これらを除去するフィルタリング処理を行っています。なお、本稿ではフィルタリング処理過程で残存した地盤以外の地物をノイズと呼ぶことにします。

航空レーザ計測は、センサ性能の向上だけでなく、ヘリコプターやUAV(Unmanned Air Vehicle:無人航空機)といった低高度での運用が可能なプラットフォームへの搭載により、より高密度で高精細なデータが取得できるようになりました。これまでのフィルタリング処理は、熟練の技術者により主に手動で行われてきましたが、今後も益々増大傾向のデータを迅速に処理し、提供していくためには、自動化による効率化が必要とされています。

一方、人工知能の世界では近年、ディープラーニング(Deep learning:深層学習)と呼ばれる機械学習手法が、音声認識や画像認識などで成功を収め、急速に注目を集めています。このような背景の下、アジア航測は、航空レーザ計測データのフィルタリング処理に機械学習を援用したノイズ除去手法(名城大学と共同特許申請済み)を開発しましたのでご紹介します。

ディープラーニング

画像認識の分野では、CNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)と呼ばれるディープラーニングが物体識別(図1)に用いられ、圧倒的な精度を達成しました。本研究は、CNNを応用したセグメンテーションと呼ばれる技術を使用しています。セグメンテーションは、画像内の各ピクセルが何に属するかを識別する技術ですが、訓練用の識別対象画像と識別結果の対のデータから識別ルールを自動的に学習します。

アジア航測はこれまで、赤色立体地図を用いて品質管理を行ってきましたので、フィルタリング処理前後の赤色立体地図を豊富に蓄積しています。そこで、本研究では、こうした赤色立体地図などをディープラーニングに利用することとしました。航空レーザデータには地盤以外に、樹木や背の低い植生、建物、橋梁といった数種類の地物が含まれますが、本研究では、出現頻度が高く判定が明瞭な樹木を対象としています。

図1 ディープラーニングによる物体認識

樹木ノイズの検出と除去

フィルタリング処理は一般的に、レーザデータ専用のソフトウェアを使用して自動的に行われますが、対象地域の地形や地物の分布状況に応じて処理パラメータを調整する必要があります。また、通常は自動フィルタリング処理後に残る樹木等のノイズを手動で除去する必要があります。本研究では、手動フィルタリング処理前の赤色立体地図を識別対象画像として入力し、樹木ノイズとその他の領域が色分けされた画像を識別結果として出力するディープラーニングの学習モデルを作成しました。図2にフィルタリング処理前の赤色立体地図、図3に樹木ノイズの検出結果(黄色で表示)、図4に手動フィルタリング処理後の赤色立体地図を示します。図2は、画像右上の斜面に多くの樹木ノイズが認められますが、図3においてノイズが適切に検出されていることがわかります。

ディープラーニングによる樹木ノイズの検出は赤色立体地図に対して行われますので、その結果を基の点群データに反映させる必要があります。赤色立体地図は、標高値を持つ点が正方格子状に並ぶデータから作成されますが、このデータは、基のランダム状に並ぶ点から補間することにより作成されます。

そのため、赤色立体地図上で検出されたノイズのピクセルは、当該ピクセルの範囲内にノイズのランダム点が含まれていた可能性を示すものの、範囲内のランダム点全てがノイズであるとは限らないため、条件によりノイズか地盤かを判定する必要があります。本研究では、まず、ノイズ検出領域の外側の点を用いて内挿補間することにより、地盤面を推定します。次に、ノイズ検出領域内の点群の標高値と推定された地盤面の高さを比較し、点群の標高値が一定以上大きな値を示した場合はノイズと判定します。図5に、ノイズ検出と除去の処理を複数回繰り返した場合の結果を示します。図1と比較して樹木ノイズが大幅に減少していることがわかります。

図2手動によるフィルタリング処理前の赤色立体地図
図2手動によるフィルタリング処理前の赤色立体地図
図3ディープラーニングによる樹木ノイズの検出結果(黄色)
図3ディープラーニングによる樹木ノイズの検出結果(黄色)
図4手動によるフィルタリング処理後の赤色立体地図
図4手動によるフィルタリング処理後の赤色立体地図
図5 ディープラーニング援用したノイズ除去結果
図5 ディープラーニング援用したノイズ除去結果

おわりに

本研究では、機械学習を援用した航空レーザデータのノイズ除去手法を開発し、樹木ノイズの自動検出・除去については定性的に良好な結果が得られることがわかりました。今後は、道路や河川付近での過剰抽出を改善するとともに、建物や背の低い植生など、他のノイズについても検討し、最終的な効果を定量的に把握する予定です。また、将来は航空レーザ測深機など、他のレーザデータに対しても適用を検討する予定です。