先端研の研究領域
研究事例
浅海域生態系の再生に向けたサンゴ礁分布図の整備
慶良間諸島国立公園を例として
はじめに
主に熱帯の浅海域に発達するサンゴ礁は、多様な生物の生息基盤であるとともに、波浪から海岸を守る防災機能、海洋のCO2濃度の調節機能などを持つ重要な生態系であることが知られています。しかし、近年では地球温暖化に伴う海水温の上昇、沿岸部の開発、オニヒトデの大量発生などの影響によりサンゴ礁は衰退傾向にあり、これらは世界的な問題となっています。1998年、2007年には、大規模なサンゴ白化現象(サンゴに共生する褐虫藻が放出され、サンゴが白くなる現象)が発生し、世界の広い範囲でサンゴ礁が大きなダメージを受けました。
また、2016年にも大規模なサンゴ白化現象が確認されています。このようにサンゴ礁は様々な環境変動の影響を受けて衰退傾向にあり、その保全・再生には、広い範囲に生育するサンゴの分布状況および推移を正確かつ効率的に把握する事が必要です。ここでは、環境省が自然再生事業に係る調査の一環として実施した、慶良間諸島国立公園におけるサンゴ礁分布図の整備について紹介します。
空中写真判読による2時期(1977年、2014年)のサンゴ礁分布図の作成
航空デジタルカメラにより撮影した2014年の慶良間諸島全域の空中写真を判読し、サンゴ礁分布図を作成しました。作成に際して、無人島を含む主要な島嶼部において潜水調査を行い、現地海域のサンゴ生育状況を確認するとともに、底質区分毎(サンゴ礁、砂、岩盤など)に判読の教師ポイントを設定し、判読精度の確保、均一化を図りました(図1)。これを参照して国土地理院が1977年に撮影した空中写真を判読し、過去のサンゴ礁分布図を作成しました。整備したサンゴ礁分布図の妥当性については、地元のダイビング協会などへのヒアリングおよび既存資調査を行い検証しました。
阿嘉島マエノハマにおける2時期のサンゴ礁分布を図2に示します。サンゴ礁は、2時期とも湾奥部を除く広い範囲に分布していますが、1977年から2014年にかけて、サンゴの高被度分布域(被度25%以上)が著しく減少しており、サンゴ礁の衰退傾向が認められます。


次に、慶良間諸島全域の2時期におけるサンゴ礁等の分布状況を比較しました(図3)。全体として2時期のサンゴ礁分布面積に大きな変化はありませんでしたが、2014年は1977年に比べて被度25%以上の分布域が、ほぼ半減し、代わって被度25%未満の分布域が大きく増加する傾向が
みられました。

衛星画像データを用いたサンゴ礁分布図の作成
今後の継続的なサンゴ礁モニタリングでは、より効率的な調査手法を検討する必要があるため、衛星画像を用いたサンゴ礁分布の把握を試みました。衛星画像データには、2014年に慶良間諸島全域を撮影し、雲や海面のハレーションの映り込みが無いものを使用しました(WorldView-2、分解能0.5m、観測日2014年1月)。水中では水深が深いほど、光が到達しにくい特性があるため、それを補正するための画像処理を行いました(図4)。2014年の空中写真判読結果および現地調査結果との比較では、全体の的中精度は約80%でした。


おわりに
本稿では、環境省那覇自然環境事務所より受託した「平成27年度慶良間諸島国立公園自然再生データベース作成業務」の成果の一部を紹介しました。
2011年に世界資源研究機構(WRI)が発表した「Reefs at Risk Revisited(危機に瀕するサンゴ礁再考)」によると、海水温上昇、沿岸部の開発などの影響により、世界のサンゴ礁の75%が危機的な状態にあり、今後、何らかの対策がとられなければ、2030年までにサンゴ礁の90%が危機的状況に陥るおそれがあるとされています。
アジア航測は、今回ご紹介した空中写真判読・衛星画像解析の他、航空レーザ測深(P.119参照)、ハイパースペクトルセンサ画像解析、サンゴ礁を含む海底地形の3Dモデル化などの先進技術の多面的かつ効率的な活用により、世界的な課題であるサンゴ礁の保全に貢献します。
