先端研の研究領域
研究事例
衛星監視カメラによる広域土砂移動域の自動抽出
宇宙からの災害情報サービスを目指して
はじめに
山林面積比率の高い日本においては、集中豪雨や地震などで斜面崩壊が多発するため、空からの災害把握は不可欠です。災害時、航空機を用いた写真撮影やレーザ計測をいち早く行い、情報を提供することは当社に与えられた大きな社会的な使命の一つです。
災害調査においては災害前と災害後を比較し、対象地区の変化履歴を把握することも重要です。これは「モニタリング(監視)」といわれる領域ですが、コスト的な問題もあり、山林を航空機による写真撮影で常時、もしくは定期的にモニタリングすることは困難です。これを補うために衛星から撮影した画像を利用することもありますが、これまで衛星画像は低分解能衛星(10m~)を除いて撮影頻度が少なく価格も高いため、災害のモニタリングに利用されることは多くありませんでした。
近年、低コストに打ち上げあることができる超小型衛星を複数組み合わせ、高頻度に衛星画像を提供する運用形態が登場してきています。これを衛星コンステレーションと言います。
本研究開発では、衛星コンステレーションを「監視カメラ」のように活用する災害情報サービスを構築するため、主に斜面災害への適用性を評価するとともに、土砂移動域の自動抽出技術の開発を行いました。

衛星コンステレーションによる災害監視
現在利用できる高頻度観測衛星としてPlanet Labs社のPlanetScope衛星があり、3m解像度の衛星画像が全世界でほぼ毎日撮影ができる体制になっています。本衛星を利用すれば、幅15m程度の小さな崩壊についても判読できます。
また、平成29年7月九州北部豪雨に伴う福岡県朝倉市周辺をテストサイトとして検討した結果、被雲率(画像内の雲の割合)が比較的高い場合でも、雲に覆われていない部分を集成すれば発災後10日程度でほぼ全域の情報が得られることが確認できました(図1)。
土砂移動域の自動抽出
土砂移動域を自動抽出するには2つのアプローチがあります。
- 単独画像抽出
災害後の画像のみを利用した抽出方法です。今回は、土砂移動域のトレーニング用のデータを用いて深層学習により画像の特徴を学習させ、抽出します。移動域は植生のない裸地と周囲の植生のコントラストを上げるため、植生の有無を反映する近赤外バンドを活用したフォールスカラー画像(植生域が赤く表示される)を利用します。 - 差分抽出
災害前の画像と災害後の画像を比較して、大きく変化した部分を抽出する手法です。季節変化の影響が出ないよう直近の画像を使用し、また影の影響を取り去るために画像を植生指標(Normalized Difference Vegitation Index: NDVI)に変換してから処理します。

単独画像抽出は過去画像が得られない場合にも利用できる一方、長期に画像を蓄積・利用できるモニタリングの場合は差分抽出の方がご抽出が少なくなります。図2に単独画像抽出と差分抽出の例を示します。図中黄色実線はマニュアル判読結果を示します。
おわりに
超小型衛星による衛星コンステレーションの画像利用は日本ではまだ始まったばかりです。衛星コンステレーション事業については欧米が先行していますが、アクセルスペース社のGRUS衛星(地上分解能2m)など、国内発の衛星の打ち上げも計画されており、新しい衛星画像の利用方法として今後定着していくものと考えられます。これらの技術と組み合わせた災害情報サービスを今後構築していきます。
本研究は、「平成29年度国土交通省建設技術研究開発助成制度」(株式会社アクセルスペースとの共同研究)の開発費補助金を受けて実施した研究「衛星監視カメラによる広域土砂動態監視手法の開発」の成果の一部をとりまとめたものです。