アジア航測株式会社 先端技術研究所 アジア航測株式会社 先端技術研究所

先端研の研究領域

研究事例

気候変動適応計画推進のためのサンゴ礁分布の現況把握

衛星画像を活用したサンゴ礁分布図の作成について

はじめに

近年、気候変動の影響は自然環境の様々な面に表れており、2016年には、南西諸島の広い範囲で、夏季の高水温が主な原因と考えられる大規模なサンゴの白化現象が発生しました。サンゴ礁は漁場としての利用、気候調整、レクリエーションなどの様々な生態系サービスを提供していますが、海水温変動の影響を受けやすく、これら浅海域生態系の劣化が進むことによる生態系サービスの低下が懸念されています。2018年に閣議決定された「気候変動適応計画」では、亜熱帯域におけるサンゴの白化現象を受け、モニタリングなどの調査を重点的に実施し、気候変動影響の評価を行うことが示されています。このような背景のもと、アジア航測では、環境省の事業において、サンゴ礁の現況を広く面的に把握し、その変化を捉えるために、宮古列島・久米島・与論島・沖永良部島を対象に衛星画像解析および現地確認によりサンゴ礁分布図を作成し、過去の調査結果との比較を行いました。

衛星画像によるサンゴ礁分布図の作成手法

サンゴ礁分布の現況を正確に把握するため、2016年の大規模白化以降に撮影された衛星画像の中から、比較的低コストで高分解能なSPOT-6/7衛星の画像(解像度:マルチスペクトル6m、パンクロマチック1.5m、撮影日:2017年5月3日~2018年6月4日)を使用しました。リモートセンシングにより海底の状態を把握する際、水深が深くなるほど光の量が減少することにより、底質の判別が困難になるという問題があります。そこで、水中での光の消散(減少)の影響を除去するため底質指標(Bottom Index)のアルゴリズム注1)を用いて、水深補正を施しました。この処理を行うことで、深い水深帯の底質の状況を把握することができるようになります(図1)。

図1 トゥルーカラー(オリジナル)画像と底質指標画像

その後、底質指標画像を用いて、ISODATA法による底質の分類を行い、簡易的にサンゴ礁域の底質分類図を作成しました(図2)。底質分類図をもとに選定した調査地点において、現地の海域で目視観察によりサンゴの被度および底質などを確認し(図3)、その結果をシートゥルースデータとして画像解析に用いることにより、詳細なサンゴ被度区分を持つサンゴ礁分布図を作成しました。

図2 サンゴ礁域の底質分類図
図3 現地の確認結果例

サンゴ礁分布図の例(久米島)

サンゴ礁分布図は、礁池内(リーフ内側の水深が浅い場所、最大水深は3m程度)では4段階、礁池外(リーフの外側)では3段階の詳細なサンゴ被度区分で表現しました。例として久米島のサンゴ礁分布図を図4に示します。
サンゴ群集被度は、礁池内では5%未満、5~25%、25~50%、50~100%の4区分すべてが分布し、礁池内の南側では被度5~25、25~50%のサンゴが多く、礁池の北側では被度5%未満のサンゴが多い傾向がみられました。また、現地確認で得られた情報を参考に、底質区分(干出裸岩、泥底、砂底、海藻、海草など)やサンゴ生育型(枝状ミドリイシ、卓状ミドリイシなど)を図中に表記しました。

図4 衛星画像解析および現地確認によるサンゴ礁分布図(久米島)

過去の調査結果との比較

今回の成果と過去調査注2)で作成されたサンゴ礁分布図をGIS解析により比較した結果、与論島と沖永良部島ではサンゴ礁の分布面積が減少し、被度も低下している傾向が見られました。一方、宮古列島と久米島では、過去調査と比べてサンゴ分布域の面積が大きく増加する傾向がみられました(図5)。
これは、過去調査では航空写真の目視判読によりサンゴの分布状況を図化しており、宮古列島と久米島については、浅海域でも比較的深い水深帯のサンゴ礁が十分に抽出されなかったことが大きな要因であると考えられました。今回のサンゴ礁分布図では、衛星画像の底質指標による水深補正を施してサンゴ礁の抽出を行っていることから、より正確なサンゴ礁分布を把握することができました。

図5 3時期のサンゴ礁分布面積の比較

おわりに

本稿では、環境省生物多様性センターより受託した「平成30年度気候変動適応計画推進のための浅海域生態系現況把握調査業務」の成果の一部を紹介しました。サンゴ礁の推移を把握するためには、それらの面的情報を定期的に把握する必要がありますが、従来の現地調査を主体とした手法や航空写真の目視判読では、精度やコストなどの面で様々な制約が考えられました。
今後は、今回有効性が確認された衛星画像解析によるサンゴ礁分布図作成手法を適用し、面的なサンゴの分布状況を定期的にモニタリングすることが重要と考えられます。アジア航測では、これまで培った海洋調査技術や画像解析技術により、これらの取り組みを支援してまいります。

注1)底質が同じならば、バンドi, jのデジタル出力値DNi, DNjの対数値は水深に関わらず傾きが一定になる(Lyzenga, 1978)という原理を用いて、水深の影響を除去した底質指標を導入する手法
注2)第4回自然環境保全基礎調査(海域生物環境調査)(環境庁、平成2~4年度)、サンゴ礁マッピング手法検討調査業務(環境省、平成20年度)