先端研の研究領域
研究事例
デジタルツインに向けた要素技術開発
異種センサ点群融合と建物モデリングに関する研究
はじめに
内閣府の第5期科学技術基本計画で、我が国が目指すべき未来の社会の形としてSociety5.0が提唱されています。Society5.0は「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)※1」と位置付けられています。
アジア航測は、サイバー空間構築に関わる様々な技術開発および研究を行っております。本稿ではその中の一つとして、デジタルツインとその要素技術についてご紹介いたします。
デジタルツインについて
Society5.0の実現には「デジタルツイン」が大きな役割を担います。デジタルツイン(Digital Twin)とは、大量のデータを基として、現実空間をデジタルデータとして仮想空間上に再現したものです。それにより、現実世界で発生する様々な事象を仮想空間の中で正確に解析・シミュレートすることが可能となります。例えば、災害シミュレーションや人流解析、様々な移動手段をシームレスに接続するMaaS(Mobility as a Service)などが利用シーンとして挙げられます。
アジア航測では、デジタルツインを達成するためのデータ整備という観点から、①航空レーザやUAV(無人航空機)レーザ、車載型レーザ(MMS)、モバイルレーザなどの異なるセンサで取得した点群融合、②建物や道路などの地物を三次元形状で表現する都市モデルの自動生成手法、について研究を行っています。

点群融合について
デジタルツインを達成するためには、多岐にわたる三次元データを同じ空間上の正しい位置に配置していく必要があります。中でも点群はそれ自体が三次元データの一つであるとともに、他の三次元データを作成する入力データとなることも多いため、デジタルツイン上で重要な役割を果たします。しかし、航空レーザ点群とMMS点群を組み合わせる場合のように異種センサで取得した点群を融合する際には、それぞれが取得した点群を単純に重ね合わせても位置ずれなどの不整合が起きてしまいます。なぜなら、センサによって計測精度が異なり、得られた点群が持つ絶対位置正確度が一致しないためです。
この課題を解決するために、基準点による位置補正や計測時の移動軌跡と点群の分布特徴を利用した半自動位置合わせ技術を開発しました。その結果、位置ずれのような不整合を極力減らしながら、異種センサ点群を融合することが可能となりました。
図2は、航空レーザ(緑)、MMS(青)、モバイルレーザスキャナによる歩行計測(黄)の点群を融合させた結果です。異種センサ点群の合成により、ビル群の屋根や道路などの屋外点群と駅の構内などの屋内点群を一つの空間内で重なり合った状態で扱うことが可能になります。それにより、仮想空間上で屋外と屋内を別のデータとして区別せずに表示・解析することが可能となり、より現実世界に近い環境を表現できるようになります。

都市モデルの自動生成について
デジタルツイン上で様々なシミュレーションを行うためには、建物や道路といった現実世界にある地物を三次元形状で表現した都市モデルが必要になります。現在、基盤地図情報などの既存の二次元の建物輪郭データと各種センサで取得された点群から、建物を三次元の箱形状で表現した建物モデルや屋根形状まで再現した建物モデルを自動作成する手法について研究を行っています。
今後、Society5.0の実現のためにも三次元都市モデル生成の需要は更に拡大していくと想定され、本技術は日本全国の都市モデルの効率的な整備に大きく貢献できると考えております。これからも建物モデル自動生成の精度向上についての研究を続けるとともに、道路やトンネル、橋梁など、都市モデルを構成する他の地物に関しても自動生成手法の検討を行っていきます。

おわりに
点群融合および都市モデルの効率的な作成は、Society5.0を達成するためのデータ整備において非常に重要なテーマとなります。今後も効率化・高精度化に向けた自動処理に関する研究を進めてまいります。
本稿は令和元年度に国土地理院から受託した「3次元測量(3次元地図作成)の高精度化、効率化等を図る技術の試行業務」の成果の一部を利用しております。
※1 内閣府Society5.0 https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/ (2020年10月アクセス)