先端研の研究領域
研究事例
深層学習と赤色立体地図を用いた航空レーザデータのフィルタリング技術
赤色立体地図で表現された建物と高架橋の自動分類
はじめに
航空レーザ計測のデータから樹木や建物などを取り除くフィルタリング処理は、地盤以外の不要な地物を含まない地盤標高データを作成する上で重要な工程です。アジア航測では、高品質な地盤標高データを提供するため、独自の地形表現手法である赤色立体地図(特許第4272146号)を用いて、計測データに含まれる樹木などの地物を発見しやすくした上で、これらを除去するフィルタリング処理を行っています。一方で、このようなフィルタリング処理は手動で行われ、多くの時間と労力が費やされるため、作業の効率化が課題となっています。
このような背景の下、アジア航測は、赤色立体地図で表現された不要な地物を深層学習により抽出し、この抽出結果を利用して自動的にフィルタリング処理を行う技術を2018年に開発しました(特願2018-23131)。過去に開発した技術は、山林地で出現頻度が高い樹木を検出対象としていましたが、今回は、都市部に多い建物や高架橋も検出対象としました。高架橋などの交通施設や建物、植生は、一般的にはフィルタリング対象ですが、道路事業では、道路面の連続性を損なわないために道路橋を残す必要があります。このように、多様化する事業の目的に沿った処理を可能とするため、本技術を改良しましたのでご紹介します。
深層学習を活用したフィルタリング処理
従来のフィルタリング処理は、レーザデータ専用のソフトウェアを使用した自動処理と目視による手動処理により行われてきました。自動処理では、対象地域の地形や地物の分布状況に応じて処理パラメータを調整する必要がありますが、山林地と都市部が混在するような場合は、地形が削られてしまう場合や、逆に、不要な地物が残ってしまう場合があります。そのため、手動で行うフィルタリング処理が重要な工程となっています。
そこで、手動フィルタリング処理を省力化するため、専用ソフトウェアによる自動処理で残った不要な地物を深層学習により抽出し、地物の種類に応じてルールを設け、自動的に除去することとしました(図1)。

都市部への適用
本研究は、深層学習を活用した自動フィルタリング技術を都市部に適用するため、樹木の他に建物、橋・高架橋、背が低い植生を赤色立体地図上で識別できることを目標としました。図2に都市部における各種フィルタリング処理の赤色立体地図と深層学習の識別結果を示します。レーザデータ専用ソフトウェアによる自動フィルタリング処理結果の赤色立体地図(図2(a))では、建物や高架橋(道路橋)が残っていますが、この画像を深層学習で分類処理した結果(図2(b))では、一部に誤分類が認められるものの、全般的に正しく識別されていることがわかります。この識別結果を基に、一般事業向けに不要な地物を全て除去した結果を図2(c)に、道路事業向けに樹木、建物、低い植生のみを除去した結果を図2(d)に示します。図2(c)では、建物も高架橋も除去されていますが、図2(d)では、高架橋が完全に残っていることがわかります。深層学習を活用した自動フィルタリング結果(図2(d))の点群を対象道路付近のみ手動フィルタリング処理した点群と比較したところ、手動処理後の点群全体の98%が自動処理後の点群と一致していました。これは、地盤と残すべき地物が誤って除去された割合が低いことを意味します。一方、自動処理後の点群全体では、93%が手動処理後の点群と一致していました。前述の一致率に比べてやや低い値ですが、これは、不要な地物が残っている割合がやや高いことを意味します。図2(d)の処理では、道路によってフィルタリング対象かどうかを個別に判定していないため、手動処理と必ずしも一致しません。今後は、フィルタリング対象の道路を囲むポリゴン図形を使用して、ポリゴン内では高架橋であっても除去するといった処理を行うことで、より目的に応じた柔軟なフィルタリング処理が可能になると期待されます。

おわりに
本稿では、赤色立体地図とAIを活用した航空レーザ測量データの自動フィルタリング技術の改良についてご紹介しました。改良前は、フィルタリング可能な地物が山林地に多い樹木のみでしたが、改良後は、都市部に多い建物や橋・高架橋が追加されました。その結果、これまでは、開発した技術を適用できる場面が山林地に限られていましたが、今後は、山林地と都市部のいずれにも適用できるようになり、さらに、事業の目的によって、フィルタリング対象の地物を変更できるようになりました。今後、深層学習による地物の識別精度をさらに向上させ、フィルタリング作業全体の効率化を進めていきます。
当社は、国土交通省i-Construction推進コンソーシアム「技術開発・導入WG」における現場ニーズと技術シーズのマッチングイベントに参加しています。本稿はこの取り組みの一部を抜粋してとりまとめました。