先端研の研究領域
研究事例
ロボット点検技術の活用
損傷形状データの三次元化と点検システムを用いた施設点検の高度化
はじめに
国土交通省では、将来的なインフラ点検の担い手不足、インフラの老朽化、維持管理費の増大といった課題への対応策として、i-Construction(以下、「ICT技術」という。)を推進しています。その取り組みの一つとしてアジア航測では、インフラ施設に対してロボットを活用した計測方法や点検方法の研究を進めています。
その知見を基に、国土交通省より令和2年度に受託した業務内で実施した、UAV(無人航空機)を活用した橋梁点検の事例についてご紹介します。
この他に、アジア航測の施設点検の高度化の取り組みとして、損傷を三次元で管理できる施設点検システムについて試行した内容についてもご紹介します。
業務概要
この業務は、宇都宮国道事務所管内の国道4 号新鬼怒川橋(長さ460m、高さ18m、幅11m)を対象に実施しました(図1)。この新鬼怒川橋の構造は、鋼製鈑桁橋で形状が複雑な橋種であるため(図2)、衝突を回避できる点検用小型UAV(無人航空機)のSkyDioJ2を採用しました。
本業務は橋梁の損傷形状をデータ化し三次元化する仕様のため、鋼製の鈑桁橋に対応した撮影方法や三次元点群モデル構築方法を考案した後に撮影を行いました。
撮影した画像から市販のSfM(Structure from Motion)ソフトウェア(Pix4D)によりオルソモザイク画像を作成し、富士フィルム社製の画像診断AI「ひびみっけ」で損傷形状を抽出し、三次元に変換しました。


撮影機器・作業方法
SkyDioJ2の特徴として、Visual SLAM技術により全方位の障害物を回避しながら飛行し、撮影対象から50cm程度まで接近できるので、細かな損傷(対物画素寸法0.6mm程度)が確認できます。さらに4Kカメラとジンバルを搭載しており、カメラは上下に200度回転するので、ブレが少ない高画質の画像の撮影が可能です(図3)
SkyDioJ2を採用することで高所の橋梁内の狭い空間での撮影を実現し、橋梁内の詳細な三次元化が可能になりました。このSkyDioJ2を用いて、考案した鋼製鈑桁橋の撮影方法と三次元点群モデル構築方法を試行しました(図4)。


損傷形状三次元データ作成
考案した三次元点群モデル構築方法に基づき、接近距離50cmから撮影した画像を用いてSfMソフト処理により橋梁の三次元点群モデルを構築した後、橋梁部材の面毎に①対物画素寸法0.6mmオルソモザイク画像を作成し、後続作業において損傷形状データを三次元データに変換するために、作成した橋梁部材の面毎のオルソモザイク画像四隅の平面位置と高さの三次元座標を記録しました。②作成したオルソモザイク画像からAIを活用した損傷検出技術(ひびみっけ)により二次元の損傷形状データを抽出し、③ 3DCADソフトによりオルソモザイク画像四隅の三次元座標へ移動と回転処理を行い三次元の損傷形状データを作成しました(図5)

施設点検の高度化に向けた取り組み
今後、UAV(無人航空機)の高機能化や施設点検の高度化が予想されます。ここでは、アジア航測の施設点検の高度化の事例として、損傷個所を三次元で管理する施設点検システムを紹介いたします(図6)。
①システムはすべてオンライン上でのブラウザで動作するので、特別なソフトウェアのインストールは不要です。また、撮影画像は現地からクラウド上に格納可能です。②損傷位置を正確に把握するために、SfM 技術により撮影画像から三次元点群モデルを構築でき、画像の撮影位置
も算出されます。③点検したい施設付近の撮影位置を選択すると撮影画像と三次元点群モデルが重なり表示されますので、現地で点検しているようなイメージで施設の損傷確認作業が行えます。④損傷を確認したらピンを三次元点群モデル上に配置し、点検内容の記録画面に情報を入力します。また、スクリーンショットやペイント機能にも対応しています。⑤報告書用に点検調書(エクセル形式)の出力が可能です。⑥三次元計測機能を搭載しており施設点検を始め設計など様々な用途で活用できます。

おわりに
本成果は国土交通省関東地方整備局関東技術事務所より受託した「R2橋梁点検車等検討業務」の成果の一部を紹介したものです。
アジア航測では、このICT技術を活用した施設点検方法を様々なインフラ施設に応用できるよう、事業化に向けた検証を行っております。