アジア航測株式会社 先端技術研究所 アジア航測株式会社 先端技術研究所

先端研の研究領域

研究事例

超解像度赤色立体地図

なめらかな画像で立体感を改善し、地図の背景としての利用にも道を開く

はじめに

国土地理院の基盤地図情報の5mDEM(A)の地形データは、公開されている地形データの中では、最も精密なレーザ計測による成果です。このデータから作成した赤色立体地図を地理院地図と重ねると、地形が立体的に見えるはずですが、最も詳しい地図データであるズームレベル18の画像となると、解像度不足となります(図1)。

そこで、赤色立体地図をなめらかにして、地図と合成する方法(以下、「超解像度処理」という。)を検討してきました。最近、国内外の特許を取得しましたので、その作成法と利用事例を紹介します。

注:普通に地理院地図でみることができる「赤色立体地図」は、等高線から作成した10mDEMのものです。

図1 地理院地図ズームレベル18と5mメッシュの赤色立体地図の合成画像
図1 地理院地図ズームレベル18と5mメッシュの赤色立体地図の合成画像

作成方法

これまで、赤色立体地図の解像度は、データのメッシュサイズと一致させていました。新手法は、ある種のアンチエイリアス処理で、地形を滑らかにするものです。元の地形を復元推定しようとするものではありません。

作成の手順は以下の通りです。基盤地図情報(標高)は、入手してあるものとします。
(1)オリジナルのDEM(等緯度経度の0.2秒メッシュ)を、9等分にオーバーサンプリングします。バイリニア補間で、ポイント数は81倍になります。
(2)すべての点について、9×9のBox averageを求めることで、2次元的な移動平均処理を行って滑らかにしていきます。これを必要に応じて複数回繰り返します。
(3)平面直角座標系に投影変換し、赤色立体地図を作成します。開度考慮距離は、当初の一般的な5mメッシュと同じになるように調整します。

この画像を、「超解像度赤色立体地図」とよび、通常の赤色立体地図と区別します。図2では、道路の位置や交差点、谷や尾根の方向や形状が、わかりやすくなっています。図2の左の元画像に対する、単なる画像処理では、尾根や谷のジャギーを解消しようとすると、全体にぼける結果でした。

図2 赤色立体地図(左)と超解像度赤色立体地図(右)
図2 赤色立体地図(左)と超解像度赤色立体地図(右)

作成事例

(1)棚田地形

棚田は、主として地すべり分布域に見られる階段状の人工改変地形です。5mメッシュの赤色立体地図では、メッシュのサイズの関係で、十分な可視化が困難なケースでも、超解像度手法により可視化できることがあります。

典型事例を、Esri User Conference 2020のMap GalleryにRed Relief Image Map using Hyper Resolution DEMとして出展しました。三重県熊野川中流域の棚田を、スワイプで両方の画像を交互に比較ができるようになっています。なお、赤色立体地図ラボでは、三重県熊野川中流域のほか、長野県千曲市、山口県長門市の棚田地形も公開中です。

図3 Map Gallery2020での棚田地形表示画面
図3 Map Gallery2020での棚田地形表示画面

(2)山城地形

最近、山城調査で航空レーザ計測や赤色立体地図の利活用が増えています。安土城では、2019年に、平米あたり20点以上の、高密度計測がおこなわれました。
これは樹木除去の精度の向上を計るためなのですが、階段部分などの空が開いている部分では、10cmメッシュなどのDEMを作成することも可能です。そのようなDEMを使用して作成した赤色立体地図は、鋭いエッジを持った高精細な画像となります。階段の一段一段をも識別可能で、このような画像をさらに超解像度処理をした画像は、「超々解像度赤色立体地図」と呼んでもいいのかもしれません。

図4 安土城の赤色立体地図10cmメッシュ
図4 安土城の赤色立体地図10cmメッシュ

フラクタル赤色立体地図

高解像度DEMから作成した赤色立体地図は、微地形の判読性は高いものの大地形は見えづらく、一方、低解像度DEMから作成した赤色立体地図は大地形を良く表現しているものの、細かなところがぼやけてしまう欠点がありました。

図5は、元データから50mDEMを作成し、その超解像度赤色立体地図と、元の5mDEM赤色立体地図を合成したものです。これをフラクタル赤色立体地図といい、微地形・大地形両方の視認性を向上させることができました。

図5 沼田市付近のフラクタル赤色立体図
図5 沼田市付近のフラクタル赤色立体図
左:5m解像度、中央:50m解像度、右:合成図
段丘の高度差感と表面微地形を同時に表現

おわりに

解像度赤色立体地図は、地形図の背景として利用することで、地形をより分かりやすく表現することが可能となります。時間を要するという課題はありますが、今後も改良や応用研究を進めていきたいと考えています。