アジア航測株式会社 先端技術研究所 アジア航測株式会社 先端技術研究所

先端研の研究領域

研究事例

UAVを活用した砂防施設点検の試み

写真撮影手法の検討と3次元点群データの活用

はじめに

国土交通省では、老朽化するインフラ施設の維持管理の点検における技能労働者不足の対策としてDX(Digital Transformation)化が推進されています。砂防事業においても、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)などの点検ロボットを活用した点検要領や手引きなどが策定され、点検作業の安全性の確保、点検作業の効率化、技術的な高度化を促進することが必要となります。

砂防堰堤などの砂防施設点検は、原則、徒歩による目視点検を行うこととなっていますが、施設が急峻な山地河川に位置することからアクセスに時間を要し、流水による転倒や高所からの滑落などの事故が発生する危険性が高い作業となっています。

近年では、砂防施設点検においてもUAVが活用され始めていますが、砂防施設周辺は樹木が繁茂している箇所も多く、UAVの接近が困難であることが課題となっています。一方、こうした通常のUAVが接近困難な場所における、インフラ施設点検用としてSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)を搭載し、衝突回避能力に優れたUAVが普及し始めています。

本稿では、将来的なUAVの自動飛行による砂防施設の点検の実現に向けて、砂防堰堤を対象とした写真測量を行い、SfM(Structure from Motion)解析により作成した3次元点群データを作成し、砂防施設点検に活用するための手法について試行した結果を報告します。

UAVによる砂防施設点検手法の検討

本実験では、砂防施設の型式や樹木が繁茂した箇所におけるUAVを用いた点検手法の適用性を検証するため、不透過型砂防堰堤と透過型砂防堰堤(鋼製スリット堰堤)それぞれ1基を対象としました。実験に使用したUAVは、国土交通省の「点検支援技術性能カタログ(案)」に登録されているSkydio社のUAV(全方向衝突回避センサ搭載)を用いました。

砂防施設の目視点検では、損傷内容を記録するために損傷箇所の写真撮影やポールなどによる損傷規模の計測を行います。その代替にUAVを活用するには、撮影写真から損傷の大きさを計測する技術の一つであるSfM処理が必要となるため、図1に示すように、SfM処理に適した撮影方法と、損傷を計測する方法を考案しました。

図1 UAVとSfMを活用した施設点検イメージ
図1 UAVとSfMを活用した施設点検イメージ

砂防堰堤の損傷を正確に計測するため、高解像度の写真を取得する近接撮影と、砂防施設の位置情報を取得するための遠景撮影を計画しました。また、位置情報の精度を高めるため、砂防堰堤周辺に標定点を4点設置しGNSS(Global Navigation Satellite System)測量により座標値を取得しました。写真の地上画素寸法は、近接撮影を1㎜~3㎜、遠景撮影を10㎜に設定し、撮影間隔の重複度は隣接する写真間及びコース間を80%に設定しました。近接撮影の撮影方向は砂防堰堤に対して、垂直・斜め・側面方向の撮影コースを設定しました(図2)。

図2 写真撮影計画と撮影写真
図2 写真撮影計画と撮影写真

3次元データを活用した砂防施設点検の実施

砂防堰堤の損傷の大きさを写真上で計測するためには、SfM処理した撮影位置と方向、3次元点群データが必要となるため、図3に示すように下記の手法で砂防施設点検用の3次元点群データを作成しました。

①遠景撮影写真と標定点座標を用いてSfM処理し、砂防堰堤と標定点を含む周辺の「座標あり遠景撮影写真3次元点群データ」を作成。

②座標なし近景撮影写真をSfM処理し「座標なし近景撮影3次元点群データ」を作成。

③①から抽出した座標値を②に付与した「点検用3次元点群データ」を構築し、完成。

図 3 3次元点群データ構築イメージ
図3 3次元点群データ構築イメージ

撮影対象とした不透過型砂防堰堤の下流は樹木が繁茂しており、上空からは詳細が確認できませんでしたが、SLAMを搭載したUAVを用いることにより、樹木下の状況を近接して撮影できることを確認しました(図4)。

図4 近接写真撮影による3次元点群データ作成状況
図4 近接写真撮影による3次元点群データ作成状況

また、透過型砂防堰堤においては、上空からの撮影では把握ができない、鋼製部材の下部の状況も取得できることを確認しました(図5)。

図5 鋼製部材下部の3次元点群データ作成状況
図5 鋼製部材下部の3次元点群データ作成状況

作成した3次元点群データを用いた砂防施設の損傷状況の点検には、Reconstruct社の点検システムを使用しました。この点検システムでは、撮影した写真と3次元点群データの位置合わせを行うことで、砂防施設に存在するひび割れなどの損傷を写真の解像度で確認することができます。

図6に点検システムにより砂防施設の損傷状況を確認した結果の一部を示します。計測計画に基づき作成した高精度な3次元点群データと高解像度写真により、目視点検と同等の、幅1mm程度のひび割れを画面上で視認し、長さを計測することができました。

図6 点検システムによる損傷状況の確認イメージ
図6 点検システムによる損傷状況の確認イメージ

おわりに

近年のUAVの機体性能や自動飛行に関する技術発展は目覚ましく、AI技術(深層学習など)と組み合わせることにより、従来の目視点検と比べて、安全性・効率性が向上した砂防施設点検が実現されることが期待されます。

アジア航測では、これまで航空レーザ計測などの分野で培ってきた3次元点群データの解析技術と、AI技術を融合し、砂防施設を含むインフラ設備点検におけるUAVの活用を推進します。