アジア航測株式会社 先端技術研究所 アジア航測株式会社 先端技術研究所

先端研の研究領域

研究事例

ロボット点検技術の活用

PC逆ランガーアーチ橋への点検支援技術の活用

はじめに

日本国内には、道路橋(橋長2m以上)が約72万橋あり、老朽化する橋梁が増加し続けています。さらに点検における技能労働者が不足していることから、橋梁点検の効率化が期待されています。国土交通省では、橋梁点検の効率化の取り組みとして点検支援技術性能カタログを作成し点検に有効な支援技術を公開しています。
この点検支援技術性能カタログに登録されている、点検用UAV(無人航空機)を活用した点検手法を大規模特殊橋梁であるPC逆ランガーアーチ橋のアーチリブ下面に適用した事例についてご紹介します。

業務概要

点検対象の米子自動車道(江府IC~蒜山IC)に位置するPC逆ランガーアーチ橋は、河川の浸食作用により形成されたV字渓谷を跨ぐため、地上高80m、アーチ支間119mの大規模アーチ橋です。この橋梁の点検では、図1に示すようにアーチリブ下面の一部で、橋梁点検車やロープアクセスによる目視点検が困難であるため、点検用UAVを用いた点検を検討しました。

図1 作業対象範囲

このUAVに必要な性能については、細かなひびわれなどの変状を撮影した画像上で判読するために橋梁に接近し高解像度の画像を取得する必要があります。しかし飛行中に橋梁本体や周辺の樹木などに衝突する恐れがあるため、衝突回避機能に優れているVisualSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)を搭載したSkydio2+を使用しました(図2)。
UAVで撮影した画像を用いて点検するためには、画像上で損傷を判読し、損傷の位置や大きさを記録する必要があります。その手法としてSfM(Structure from Motion)ソフトウェアを用いて橋梁の三次元モデルやオルソ画像を作成し点検する方法を考案し実施しました。

図2 点検用UAV Skydio 2+

オルソ画像作成

本事例では、アーチリブ下面のオルソ画像を作成し、オルソ画像上で損傷の大きさを計測するために、SfM処理に適した撮影方法を考案し、三次元モデル作成用とオルソ画像作成用の撮影を実施しました(図3)。
SfM処理では、三次元モデル作成用の撮影画像に記録されたGNSSの座標値を使用して地理座標とスケールの正確な三次元点群データを取得し、オルソ画像の解像度の基準に使用しました(図4)。
オルソ画像は、アーチリブ下面において、SfM処理で作成した三次元点群および画像の撮影位置を用いて、図5に示すように径間ごとに1ピクセルの地上画素寸法0.8mmで作成しました。さらに、作成したオルソ画像から橋梁の点検に必要な損傷を判読し、損傷の大きさを計測できることを確認しました。

三次元モデル作成

SfM処理で得た三次元点群と撮影位置付きの全景撮影画像をSfMソフトウェア上で重ね合わせることにより、橋梁の骨格を図化し、橋梁の三次元モデルを作成しました(図6)。このモデルを点検時の変状位置の記録や補修設計などに利用するために、図7に示すように三次元モデルと竣工図の寸法を比較(108箇所)した結果、全体の標準偏差は0.048mとなりました。

図6 三次元モデルの作成方法
図7 三次元モデルの品質確認方法

おわりに

Visual SLAMを搭載したUAVを使用することで、アーチ橋の細かな変状を判読できる画像を取得することが確認できました。またSfM技術を用いることで、点検に使用可能な橋梁三次元モデルおよびオルソ画像の作成が可能であることを確認しました。
本検証では、西日本高速道路株式会社より検証場所を提供して頂きました。さらに、西日本高速道路エンジニアリング中国株式会社には、共同研究者として現地作業やデータ解析などのご協力を頂きました。