先端研の研究領域
研究事例
ARアプリとタブレット端末を利用した水文調査支援手法の開発
現地調査の効率化に向けた拡張現実とIT技術の導入
はじめに
近年のAIやXR技術(VR、AR、MR等、図1参照)などのデジタル技術の発展は目覚ましく、公共事業分野でも、これらの新技術への対応が求められています。
XR技術のうち、AR技術はスマートフォンやタブレット端末等の比較的安価で汎用性の高い機器を使って実現できるため、建設現場や現場調査への導入が容易という利点があります。AR技術で現実世界への付加情報をリアルタイムで提供することによって、紙の図面だけでは理解が難しい構造物の三次元モデルを現地で重ね合わせて表示したり、目に見えない地下埋設物の場所の表示や、調査予定地点への案内のための方向や距離の表示、道路面性状調査結果や道路防災点検結果等の補修施工時の情報表示など、様々な利用方法を考えることができます。また、タブレット端末を利用することで遠隔コミュニケーションやデータの即時受け渡し等にも対応可能であり、現場調査支援ツールとしての親和性も高い手法です。
ここでは、アジア航測が開発したARアプリとタブレット端末を活用した水文調査支援の事例を紹介します。

水文調査支援ツールの開発と現地適用の検討
一般的に建設工事に伴う水文調査は、工事期間が長期にわたることから、複数年度にわたって調査が継続されます。また、水文観測結果は工事の影響だけではなく、降水量や季節による自然状態の変動が重なって現れるため、短期長期の影響を把握するために、連続的あるいは定期的(毎月や四半期ごと)に同一地点で調査が行われることになります。特に、道路建設やダム建設等の大規模な建設工事では、影響範囲が広くなることから、調査地点や調査項目(地下水位調査、沢水流量調査、水質調査等)が多岐にわたり、複数班による調査が行われ、効率的な調査が必要です(図2)。このような定期調査では、作業班の人員を固定することによって、現地経験を積んだ技術者による効率的な調査が可能になりますが、近年の建設関連業の技術者不足は水文調査においても顕著であり、フレキシブルな班編成を行わなければ、調査工程を組むことすら困難になってきています。

これらの課題を解決するために、アジア航測ではiPadに対応したARアプリを開発しました(図3、図4参照)。
直感的に調査地点の方向と距離を確認できるARアプリは正確な調査地点の三次元位置データとタブレット端末の位置情報を設定することで、初めて現地を訪れた技術者でも効率的な調査が可能になります。
また、ARアプリの機能として、調査地点位置に関連付けた調査台帳のPDFファイルを搭載することで、紙ファイルなどの台帳を持ち歩く必要がなくなり、情報の即時閲覧による効率化と紙媒体紛失による情報漏洩防止の効果も得ることができます。
さらに、タブレット端末の通信機能を利用することで、離れた場所にいるベテラン技術者と映像を共有しながら現場状況の変化や疑問・課題を検討することも可能となり、経験の浅い技術者の調査効率向上にもつながります。

(iPad pro、GPSレシーバ、携帯電話)

水文調査支援ARアプリ実用化に向けた課題と対策
本水文調査支援ARアプリの現地使用試験では、iPadのGPS信号の受信精度が低い時には自己位置が正確に取得できず、目標地点や3Dモデルが正確に仮想現実として表示されない事象が発生しました。この問題は現場調査にAR技術が浸透できていない大きな要因の一つと考えられ、正確な位置情報の取得のため、高精度のGPSレシーバの導入や、アプリ上での位置補正が可能な機能の搭載などの技術開発が重要な課題です。
アジア航測が開発したARアプリには、QRコードを用いる位置補正(図5参照)や、地図やGISを用いる位置補正等、多彩な位置補正機能を搭載しているため、現地状況に合わせた補正を行うことで精度の高いナビゲーションが可能となります。

おわりに
今後は、さらなる作業効率の向上を目指して、電子野帳や調査データのクラウド共有化などの機能の検討を進め、調査後の手書き野帳からのデータ転記ミスやオフィスにおけるデータ整理の簡略化等を含めた建設事業全般に向けたDXを推進してまいります。
また、AR技術は建設分野以外の分野にも適用拡大が望める技術です。例えば、地表からは見えない地下の地質情報や地形区分情報の可視化は、ジオツーリズムや教育分野での利用にも効果的です。さらに、季節ごとの景観やかつて存在していた史跡・名勝などをAR技術で再現することも可能であり、エコツーリズムなどの観光分野にも利用できます。アジア航測では、これらに必要な3Dコンテンツの効率的な整備を含め各分野でのDX化を支援してまいります。