先端研の研究領域
研究事例
HISUIと高解像度衛星を組み合わせた水深推定手法の開発
異なるセンサのハイブリッドによる水深分布図の高解像度化
はじめに
わが国では、宇宙実証用ハイパースペクトルセンサHISUI(Hyper spectral Imager SUIte 経済産業省実施事業、令和元年12月に国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に搭載、2020年9月から画像の取得)により、宇宙からのハイパースペクトルデータが利用可能です。ハイパースペクトルセンサの特徴は、対象物の性質・物性を示す反射スペクトルを広範囲の波長帯で連続的に得ることができることです(従前のマルチスペクトルセンサによる衛星画像は4種類程度の離散的な波長帯を使用。)。アジア航測は、これまで、経済産業省から委託を受けた一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構が実施する事業「次世代地球観測衛星利用基盤技術の研究開発(ハイパースペクトルセンサ・データの高度利用に係る研究開発)」に参画し、ハイパースペクトルデータの利用研究を実施してきました。本研究ではその一環として、過去に航空機データを用いて開発した水深推定手法がHISUIに適用可能であることを実証しました。
また、当社独自の検討を行い、高解像度マルチスペクトル衛星にHISUIを組み合わせることにより、現地調査が不要で地上解像像度が高い水深分布図を作成する手法を開発しましたので、ご紹介します。。
衛星画像を用いた水深推定手法
沿岸海域の水深情報は船舶の安全航行や領海警備において非常に重要です。わが国の領海および排他的経済水域は広大なため、浅海域の水深情報を面的に低コストで取得できる技術が必要とされています。このようなニーズに対して、人工衛星から得られる画像を利用して水深情報を取得する技術(SDB: Satellite Derived Bathymetry)は有効な手段と言えます。
SDBは、観測波長帯が数バンドのマルチスペクトルセンサを用いる方法が一般的ですが、画像の輝度値と現地でサンプリング計測した水深との関係から経験的にエリア全域の水深を求める方法のため、通常は衛星画像の観測エリア毎に、現地での計測が必要となります。これに対してハイパースペクトルセンサは、波長分解能が非常に高いので、センサが観測した波長帯毎の値と光の伝達モデルに基づいてシミュレーションした値の一致の度合いを調べることによって、シミュレーションの入力条件の一つである水深を逆推定(インバージョン)することが可能です。インバージョン法では現地の水深データが不要ですので、調査コストを抑えられ、アクセスが困難な海域にも有効な方法と考えられます。

水深分布図の高解像度化
ハイパースペクトルセンサのHISUIはインバージョン法を用いることができますが、地上解像度が20~30m程度とやや低いので、サンゴ礁などの複雑な地形表現が難しいです。一方、マルチスペクトルセンサの衛星画像は一般に地上解像度が数十cm~数m程度と非常に高いので微地形の表現が可能と考えられます。そこで、本研究では、HISUIからインバージョン法によって得られた水深を用いて、同一地域を観測した高解像度マルチスペクトル衛星画像の輝度値と組み合わせ、経験的な方法により高解像度の水深分布図を作成する方法を開発しました(図1)。
図2に、沖縄県久米島に本手法を適用した結果を示します。図2(b)は、HISUIからインバージョン法により現地の水深データを用いずに推定して得られた海底地形の赤色立体地図です。礁嶺や溝の部分は把握できますが、地形が粗く鈍っています。これに対して、HISUIとマルチスペクトル衛星(WorldView-3)の組み合わせにより作成した海底地形の赤色立体地図(図2(d))では、礁縁部の複雑な地形が微細に表現されています。なお、本手法では画像中の砕波や海藻類が水深推定に影響しますので、元の衛星画像を確認しながら注意して用いる必要があります。




図2 水深推定により得られた海底地形の赤色立体地図(沖縄県久米島)
おわりに
本稿では、従前のマルチスペクトルセンサを用いた水深推定にHISUIを併用することで現地調査を不要にする手法をご紹介しました。HISUIは実証用のセンサですが、国外では近年、商用のハイパースペクトル衛星が登場しており、今後国内でも容易に利用できる可能性があります。そのため、本研究で得られた知見を活かし、測量船が入れないサンゴ礁海域や、噴火により測量船や航空機が近づくことができない離島などアクセスが困難な海域において、音響測深や航空レーザ測深の予察や代替手段として利用が期待できます。