先端研の研究領域
研究事例
AIなどを活用した3D都市モデル自動作成ツールの開発(概要版)
1. 背景・目的
国土交通省による「Project PLATEAU」は、スマートシティやデジタルトランスフォーメーションの基盤として3D都市モデルの整備・活用を推進しています。
しかし、高精細な3D都市モデル(LOD2以上)は主に技術者による手作業で作成されるため、広範囲に整備する際の作業時間・費用が大きな課題となっており、定期的な更新も困難です。
この問題解決の一助として、AIなど先進技術を用いた自動作成ツールの開発が求められています。

2. 建築物LOD2モデル自動作成ツール
入力データとして、建物外形情報が含まれるCityGMLファイル、航空写真、航空写真から作成した地上画素寸法25cmのDSM点群、およびカメラの標定情報を使用し、建物LOD2モデルを自動作成します。
処理工程は以下の5つのステップとなります。
- 建物点群抽出:DSM点群から建物領域を抽出する。
- 建物自動分類:DSM点群を画像化し、ResNet34を用いて建物を「陸屋根形状」か「家屋形状」に分類する。
- 陸屋根モデリング:高さ情報を基にルールベースで陸屋根型のモデルを作成する。
- 家屋モデリング:屋根線検出(HEAT[2]手法)とバルコニー抽出(TransUNet[3]によるセマンティックセグメンテーション)を組み合わせ、正確な家屋形状を生成する。
- テクスチャ貼り付け:航空写真と標定情報を用いて、生成モデルにテクスチャを付与する。
これらのプロセスでは、画像データに基づくAI処理を活用し、粗いDSM点群のみの場合に生じがちな形状破綻を防止しています。
作成結果では、建物の大小や形状の複雑さに関わらず、正確なLOD2モデルが自動生成できることが確認されました。


3. 道路LOD2モデル自動作成ツール
入力データとして、オルソ画像および道路LOD1モデル(CityGMLまたはシェープファイル)を使用し、車道、歩道、島などを表現可能な道路LOD2モデルを自動作成します。
処理工程は、以下の6つのステップに分かれます。
- 道路隣接関係の判定:車道交差部を判定する。
- 推論用データの作成:道路領域外を黒く塗りつぶした画像を作成する。
- 道路セグメンテーション:Mask2Former[3]を用い、道路領域を車道部、歩道部、島、オクルージョンに分類する。
- ノイズ除去:小さい誤分類領域を隣接カテゴリの最頻値で補正する。
- オクルージョン再分類:オクルージョン領域を再分類する。
- 領域ベクトル化:ラスタデータからスムージング処理を経てベクタデータを生成する。
実際の評価では、岐阜市や広島市の事例において、多くの道路が正確に自動作成され、手作業の修正が大幅に削減される結果が得られました。


4. OSS公開とユースケース
開発したツールは、国土交通省都市局のPLATEAU GitHubにてオープンソース(GPL v3.0)として公開されています。
具体的なユースケースとして、建物LOD2モデルを用いた太陽光発電ポテンシャル推計や、道路LOD2モデルを活用した開発許可申請管理システムなどを開発しました。これにより都市計画、インフラ管理、防災対策などでの業務効率化が期待されます。

5. 今後の開発計画
本プロジェクトは、SBIRフェーズ3基金事業の支援を受け、2027年度までに建築物LOD2、道路LOD2に加え、都市設備や植生などの自動抽出にも取り組む予定です。
さらに、属性情報の自動推定にも注力し、クラウドサービスやデスクトップアプリケーションとして提供することで、自治体やインフラ事業者、デジタルツインプラットフォーマーなど幅広いユーザが利用可能な環境の整備を目指します。
参考文献
[1] PLATEAU Handbooks, “3D都市モデル標準製品仕様書第4.1版”, 国土交通省, https://www.mlit.go.jp/plateau/file/libraries/doc/plateau_doc_0001_ver04.pdf, (参照 2025-04-02)
[2] Chen, J. et al.: HEAT: Holistic Edge Attention Transformer for Structured Reconstruction, In Proc. of the IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition, pp. 3866-3875 (2022)
[3] Chen, J. et al.: Transunet: Transformers make strong encoders for medical image segmentation, arXiv preprint arXiv:2102.04306 (2021)
[4] Cheng, B. et al.: Masked-Attention Mask Transformer for Universal Image Segmentation, In Proc. of the IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition, pp. 1290-1299 (2022)
[5] PLATEAU Use Case, “太陽光発電のポテンシャル推計及び反射シミュレーション v3.0”, 国土交通省,
https://www.mlit.go.jp/plateau/use-case/uc24-15/, (参照 2025-04-02)